秋の野山に清楚な花姿、ツリガネニンジン(釣鐘人参)はニンジンの仲間ではない!?

花と山野草

ツリガネニンジンという名を聞くと、ニンジンの仲間のように思われる方も多いのではないでしょうか。

花の形が釣鐘にそっくりで、雌しべがちょうど「舌(ぜつ)」という音の出る部分をかたどったようです。

花や葉を見る限り、ニンジンとは似ても似つかず連想が出来ませんが、根の部分が高麗人参に似ていることからこの名がつけられました。

海岸の草地や野山に自生し、夏から秋にかけて花を咲かせるツリガネニンジンについて、ちょっと詳しく見ていきましょう。

ツリガネニンジンはどんな植物?

キキョウ科の多年草

ニンジンはセリ科に分類される身近な野菜ですが、ツリガネニンジンはキキョウの仲間です。

ツリガネニンジンは多年草で、花が終わり実を付けた後は地上部が枯れますが、冬の間も根は生きています。

春になると芽吹いてきますが、若い芽や葉は「トトキ」という山菜としても親しまれています。

花色は薄い青紫色で、釣鐘に似た下向きの花をいくつも咲かせます。

写真のツリガネニンジンは白い花を咲かせる「シロバナツリガネニンジン」のようです。

雌しべの部分がちょうど鐘の「舌」部分にそっくりなので、風に揺れるとチリンチリンと音を奏でそうです。

同じキキョウ科の「ホタルブクロ」にも似ていますね。

なぜ「ニンジン」なのか

花の形が釣鐘に例えられますが、「人参」はどこから付いたのかというと「根」の形からです。

根の形がニンジンに似ているといっても、私たちが普段食べる「野菜」としてのニンジンではなく、生薬として知られる「高麗人参」のことを指します。

高麗人参の正式名称は「オタネニンジン」で、こちらはウコギ科の植物です。

ここで整理すると、

  • ツリガネニンジン:キキョウ科
  • ニンジン(普段食用にするもの):セリ科
  • オタネニンジン(いわゆる高麗人参):ウコギ科

といったようにそれぞれ全く違う仲間の植物で、根が肥大するという特徴のみ共通しています。

元々、江戸時代には「オタネニンジン」の方が先に広まっており、ニンジンといえばこちらを指していました。

朝鮮半島からもたらされたとされるオタネニンジンは、江戸幕府が諸藩大名に種を分け与えたことから「御種(オタネ)人参」といわれるようになりました。

舶来の野菜として現在のニンジンが広まったのはその後で、区別するために当初は「セリニンジン」と呼ばれていましたが、そのうちに「ニンジン」の名で一般化されてきました。

明治以降、生薬や漢方といった東洋医学が、急速に日本で発達した西洋医学に置き換わっていったことが考えられます。

根の形がオタネニンジンに似ていたことから「ニンジン」の名が付いたツリガネニンジンですが、地上部は「釣鐘」、地中部は「人参」とは、特徴をよく表しています。

ちなみにツリガネニンジンの根も生薬として利用されています。

ツリガネニンジンと人との関わり

「沙参(シャジン)」とは

先日、園芸店で草花の苗を眺めていたら、ツリガネニンジンによく似た鉢植えを見つけました。

名前を見ると「イワシャジン」と書いてあるので別の植物にも思えますが、実は同じ「ツリガネニンジン属」の植物です。

シャジンを漢字で書くと「沙参」となりますが、まさに「人参」の「参」と同じ意味で当てられています。

「沙」はさんずいが表す通り水に関係のある土地、つまり湿地や水辺などの砂質の地に生える草に由来しています。

前の項で、生薬のオタネニンジンに似ていることに触れましたが、実は「沙参」も生薬として用いられています。

ここからが少しややこしくなりますが、「沙参」とよばれる生薬はツリガネニンジン属の他に、浜辺に自生する「浜防風(ハマボウフウ)」があり、両者は全く関連がないものの同じ名前になっています。

「イワシャジン」は「岩沙参」と書き、岩場に自生することからその名になっています。

他にも高山に生える「ハクサンシャジン」、草丈の小さい「ヒメシャジン」など多くの種類があり、園芸植物として市販されている他、その繊細な花姿から生け花や茶花としても愛されています。

山菜として食用に

実は、ツリガネニンジンは山菜としても古くから食されています。

春に芽吹く若葉はクセが少なく、おひたしや天ぷら、和え物などにして食べられています。

長野県において口伝いで謡われてきた「山でうまいはオケラにトトキ 里でうまいはウリ、ナスビ 嫁に食わすも惜しゅうござる」という里謡(その土地の戯れ歌)にもある通り、メジャーな山菜のようです。

嫁に食わすも……の一節は現代では物言いが入ってしまいそうですが、それだけ身近だったということですね。

ちなみに「オケラ」とはもちろん虫のオケラではなくキク科の野草のことです。

それだけ美味しいなら食べてみたい気もしますが、野草には毒のあるものも多いため、山菜を採取して食用にする際の素人判断は避けましょう(自戒をこめて)。

まとめ

海岸の草地や野山に自生し、青紫色や白の清楚な花を咲かせるツリガネニンジンは、秋の訪れを告げる花です。

釣鐘によく似た花と、高麗人参を思わせる肥大した根の形からその名が付いています。

ツリガネニンジンは「沙参」とも呼ばれ、生薬として用いられるだけでなく、観賞用や食用にもされています。

野山に普通に生えている植物なので、山歩きをする際には出会えるかもしれません。

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