夏を告げるハスの花、蓮と人間との関わりは?

花と山野草

6月中旬から7月にかけて、梅雨も佳境に入ろうという頃、蓮の花が咲き始めます。

蓮というと、蓮の花の上に仏様が座している姿からか、仏教との関わりをイメージする方も多いかも知れません。

極楽浄土の象徴ともされる神聖な花ですが、その一方で地下茎は蓮根(レンコン)として古くから食されています。

他にも蓮のお茶、蓮の実のお菓子など、蓮はわたしたちにとって身近な植物であるほか、万葉集にも詠まれているほど古くから親しまれています。

この記事では、蓮と人間の関わりについて紹介しながら、千葉市で発掘された2000前の古代ハス「大賀ハス」についても紹介していきます。

美しい蓮の写真とともにお楽しみください。

蓮はどんな植物?

インド原産の水生植物

日本語の古い呼び名は「はちす」ですが、それは蓮の果実の形状が蜂の巣に似ていることが由来となります。

「はちす」が変化して「はす」になったとされています。

蓮は多年草の水生植物で、インド亜大陸およびその周辺が原産地とされています。

決してきれいとは言えない泥水の中で育ち、1メートルにも及ぶ長い茎を伸ばして葉を広げ、美しい花をつけます。

泥の中から咲かせる花は、汚れひとつない清らかさであることから「神聖な花」といわれ、お釈迦様が歩いた後に蓮の花が咲いたという伝説もあるほどです。

レンコンの穴にはどんな役割が?

身近な食材のレンコンを漢字で書くと「蓮根」で、文字通りハスの地下茎にあたります。

正確には地下茎の継ぎ目部分からひげのように伸びているのが根で、いわゆるレンコンに当たる部分は地下茎です。

レンコンには穴が開いているので「先の見通しが良い」という意味で、縁起が良いとしておせち料理などに用いられます。

ところで、レンコンの穴は何のためにあるのでしょうか?

蓮の茎を輪切りにすると空洞がいくつもあります。

空洞が空気の通り道となって地下茎につながり、通気性の悪い泥の中でもレンコンが呼吸できるための大切な役割を果たしています。

茎に空洞があることから、「象鼻杯」といって蓮の葉を杯に見立てて飲み物を注ぐことも行われます。

象の鼻のような形であることからその名がありますが、古代の中国から伝わるおもてなしであり、不老長寿や暑気払いなどの意味も込められています。

実は先日、千葉市の千葉公園で催された大賀ハス祭りで実際に体験してきました!

葉と茎の境目を楊枝などで穴を開けて飲み物を注ぎ、茎の空洞を伝って先端から滴るところを軽く吸いながら飲みます。

本式ではお酒なのですが、車の運転があるのでスポーツドリンクでの体験でした。

瑞々しさと心地よい青みが加わって、ふわっとした甘い香りさえ感じました。

人間と蓮との関わり

地下茎以外も食べられる

蓮は地下茎をレンコンとして食用にしますが、果実を食べることもできます。

果実も食用となり、特にベトナムでは盛んに食べられています。

日本でも市販されており。ローストしたり砂糖をまぶしたり、サクサクのスナック菓子に加工されたりして食べられています。

蓮の実をシロップ漬けにして砂糖をまぶした、甘納豆のようなお菓子をいただいて食べたことがありますが、ほっくりした食感でなかなか美味しかったです。

栗のような風味の中に微かに心地よい苦みのようなアクセントがあって、個人的には好きです。

また、蓮の葉はお茶としても飲まれており、「ハスの葉茶」として出回っている他、ベトナム料理店で水代わりに供されることもあります。

蓮の葉のお茶には、葉を乾燥させたもの、緑茶やジャスミン茶に花の香りをつけたもの、実を乾燥させたものがあります。

緑茶などに香りづけをしたものが最もポピュラーで、ほんのり甘い香りがありながら後味がすっきりしていて飲みやすいです。

観賞用として

人間の生活に身近な蓮は、その美しさから観賞用としても長く愛されています。

6月から7月にかけての早朝、4日間だけ咲く蓮の花を愛でようと、蓮池のある公園には多くの人が集まります。

蓮の花色は品種によりピンク、赤に近いピンク、白など様々ですが、ピンク色のものでは開花している4日間のうち初日が最も濃いピンクで、日に日に薄まっていきます。

中心の細かく穴の開いたところは花托(かたく)といって、花が終わると実となる部分です。

集合体が苦手な方には(筆者もですが)実が入った花托はあまり見たくないところではありますが、その個性的な姿かたちからドライフラワーの素材としても用いられています。

また、蓮は園芸用として自宅で栽培することも可能です。

園芸店やホームセンターなどでは、バケツに入った状態で蓮の株が販売されていますので、上手に咲かせられたらお家にいながらハス鑑賞ができますね。

文学作品に描かれた蓮

蓮は多くの文学作品にも描かれていますが、万葉の昔から親しまれていることがわかります。

「蓮葉(はちすば)は 斯くこそあるもの 意吉麻呂(おきまろ)が 家なるものは 芋の葉にあらし」

これは万葉集の巻十六に納められている長忌寸意吉麻呂(ながのいみきおきまろ)の詠んだ歌です。

「蓮の葉とはこのように美しいものですね。意吉麻呂(自分)の家にあるのは芋の葉だったようです」が直訳ですがこれでは面白みがありません。

自宅の芋を蓮と思い込んでいたのではなく、宴席で接待をする女性を蓮に、奥さんを芋に例えてへりくだった意味とされています。

奥様としては全くもって失礼な話ですが、現代にも通じるものがあるのではないでしょうか。

「ひさかたの 雨も降らぬか 蓮葉に 渟(たま)れる水の 玉と似たる見む」

こちらも万葉集巻十六からです。

蓮の葉は水をはじく性質があり、水が落ちると葉を濡らすことなく水玉となって葉の上を転がる姿が美しいものですが、その様子を玉に見立てています。

蓮の葉を転がる玉を見たくて雨が降らないかと願う気持ちを詠んでいますが、昔の人も同じようなことを考えていたのですね。

ちなみにこの現象は「ロータス効果」として工業の分野で広く応用されていて、ヨーグルトの裏ぶたへの付着を防ぐヒントにもなっています。

いかに人間と蓮の繋がりが強いかがわかります。

大賀ハスとは?

2000年の時を経て咲いた花

千葉県千葉市では、市の花として大賀ハスが制定されています。

昭和26年に、千葉市検見川にある現在の東大総合運動場の敷地内でハスの種子が発見されました。

元々は戦時中の燃料不足を補うために、検見川の泥炭地で草炭を採掘する目的でしたが、その際に偶然発見された蓮の花托があったことから、戦後になり蓮の研究者である大賀一郎博士が本格的に採掘調査を始めました。

地元の小中学生やボランティアも駆り出しての作業でしたが種子は発見されず、調査打ち切り直前という時に、採掘を手伝っていた女子中学生が蓮の種を発見し、そこから合計3粒が発掘されました。

大賀博士は自宅での発芽に成功し、3粒のうち1粒のみが生き残ったものの翌年には大輪のハスの花が開花し、このニュースは国内外で広く報道され、「大賀ハス」と命名されました。

当然ながらこの蓮が本当に古代のものなのか疑う動きもあったため、シカゴ大学による放射性炭素年代測定が行われ、2000年前(弥生時代)の蓮の種子であるとされました。

国内外に広がる大賀ハス

大賀ハスは1954(昭和29)年に千葉県の天然記念物に指定され、1993(平成5)年には千葉市の花に制定されました。

大賀博士が大切に咲かせた大賀ハスは、千葉公園の蓮池一面に咲いているのをはじめ、国内外約250ヶ所に株分けされ、北海道から沖縄まで日本のあちこちで見ることができます。

これだけの蓮が、たった1粒生き残った種から広がったという奇跡には、驚きを禁じ得ないですね。

まとめ

蓮は初夏を告げる美しい花ですが、古くから人とのかかわりの深い花でもあります。

仏教的なイメージが強い蓮ですが、レンコンは身近な食材として食べられていますし、実をお菓子にして食べたり葉などをお茶にしたりと、食用としても広く用いられています。

花は主に濃いピンクで、4日間しか咲きません。

最も色の濃いのは開花初日で、次第に薄れていきますが淡色の美しさも感じられます。

今、日本で植えられているハスの中には、2000年の時を越えた古代ハス(大賀ハス)から株分けされているものも多くあります。

万葉集にも詠まれるはるか昔から生きていた種子が、今も花開いていると思うと不思議ですね。

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