水芭蕉(ミズバショウ)と聞くと「夏の思い出」の一節を思い浮かべる方も多いと思います。
尾瀬に行ったことがなくとも、湿原に咲く水芭蕉の花が眼前に広がる素晴らしい歌詞ですよね。
この曲を作詞した江間章子さんは、昭和19年に尾瀬を訪れた際に一面に咲く水芭蕉を見てその感動を歌詞に綴ったとのこと。
水芭蕉の花といえば、白い花びらの中にめしべのようなものがあるのをイメージしますが、白い部分は花ではありません。
真ん中にあるめしべのようなものが「花」で、花びらに見える白い部分は「仏炎苞(ぶつえんほう)」と呼ばれ、葉が変化したものです。
歌として親しまれているのに、どこか不思議でミステリアスな雰囲気をもつ水芭蕉。
この記事では、水芭蕉の雑学について紹介していきます。
水芭蕉はどんな植物?
水芭蕉はサトイモ科
水芭蕉(ミズバショウ)はサトイモ科ミズバショウ属に分類されています。
清楚でミステリアスな姿から、サトイモの仲間というとあまりピンと来ないのではないでしょうか。
ところで、水芭蕉の花はある身近な花に似ていませんか?
フラワーアレンジメントや切り花の定番で、ウエディングブーケとしても用いられる「カラー」や、人気の観葉植物「スパティフィラム」も同じサトイモの仲間です。
水芭蕉の花はどの部分?
水芭蕉は白い花、というイメージがありますが、実は白い花びらのように見える部分は花ではありません。
花は中央の「肉穂花序(にくすいかじょ)」という黄緑色の小さな花が集まった集合体です。
白い花びらのように見える部分は「仏炎苞(ぶつえんほう)」という耳慣れない名前ですが、これは葉が変化したものです。
同じサトイモ科のカラーも同様に、白い部分は花びらではなく「仏炎苞」です。
仏炎苞という名前は、仏様と関連があるような気がしますよね。
仏像には、後光を炎のように表現してつくられた「光背(こうはい)」がありますが、花を包み込むような姿が似ていることから仏炎苞という名が付きました。
仏教的な意味というよりは、視覚的なイメージのようですね。
水芭蕉はどんな場所に生える?
水芭蕉は、冷涼な気候と湿地を好み、北海道から本州の水辺や湿地帯に自生します。
尾瀬はあまりにも有名ですが、他にも北海道の大沼や網走、秋田県の田沢湖、岩手県の蛭山、福島県の吾妻連峰、長野県の栂池高原など多くの群生地があります。
この写真は、福島県の土湯温泉付近にて撮影したものです。
水芭蕉の繁殖方法と名前の由来
特徴のある花からは種が出来て、水の流れに乗って移動し、発芽から開花までは3年ほどを要します。
種で増える他、地下茎を伸ばすことでも増えていきます。
水芭蕉は葉が成長する前に花が咲き、花が終わると葉が大きく成長します。
葉が糸芭蕉(イトバショウ)に似ていることからバショウの名が付いていますが、糸芭蕉とは奄美地方や沖縄の特産品である芭蕉布の原料となる植物です。
水芭蕉はサトイモ科に分類されているので、バショウの仲間ということではなく葉が似ているからというのが名前の由来です。
水芭蕉には毒がある?
清楚な花姿の水芭蕉ですが、実は有毒植物です。
全体にシュウ酸カルシウムを含んでいるので、採取しようとして茎や葉を折ると手について皮膚炎を起こし、かぶれることがあります。
サポニンや猛毒のアルカロイドも含まれているので、誤食すると嘔吐や下痢、重症の場合は呼吸困難や心臓麻痺を起こす恐れもあります。
採取して食べる人はいないと思いますが、うかつに折ったり触ったりすると危険な植物でもあります。
「夏の思い出」に歌われる水芭蕉
水芭蕉が咲くのは春か夏か
水芭蕉が咲く季節は夏、と思われていることが多いですが、実は春に咲く花です。
平地であれば3月~4月に咲きますが、尾瀬などの山間部は気温が低いため雪解けも遅く、開花が5月~6月頃になります。
一般的には初夏とされる時期ですが、確かに「夏の思い出」には少し早すぎますよね。
作詞者の江間章子さんによると、水芭蕉は「歳時記」において夏の季語と記載されていることから「夏」としたそうです。
水芭蕉に香りはある?
歌詞の中に「水芭蕉の花が匂っている」という一節があります。
筆者は水芭蕉を近くで見たことが無く、香りがあるのかどうかもわかりませんが、歌詞がすり込まれているので水芭蕉には香りがあると思い込んでいます。
実際のところ、水芭蕉には強い香りはありません。
花の最盛期~咲き終わりの頃にほんのり香水のような甘い香りが微かにするといわれています。
山間の湿地帯で、楚々と咲く白い姿には、微かな香りが良く似合いそうですね。
まとめ
「夏の思い出」で広く親しまれている水芭蕉の花。
白い花びらのように見えるのは花ではなく、葉が変化した「仏炎苞」で、同じサトイモ科のカラーも同じつくりです。
水芭蕉は尾瀬をはじめ北海道から本州の湿地や水辺に群生する性質があり、種や地下茎で仲間を増やします。
美しい花姿の水芭蕉ですが、全草に強い毒性があるので、うかつに触れることは危険です。
春に咲く花でありながら「夏の思い出」に綴られた水芭蕉ですが、歳時記では夏の季語とされています。
山間の尾瀬では5月はまだ肌寒く、ようやく水芭蕉が咲き始める頃ですが、一斉に咲く白い花姿は初夏の爽やかな香りを思わせます。
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